勝谷誠彦
     
     本稿を書こうとした時に飛び込んできたニュースのために、私は執筆を一日待った。北朝鮮が拉致被害者5人の家族を返す意向を伝えてきたと韓国の新聞が報じたのである。同時にNGOと称する男も平壌から新たな情報を持ち帰ってきた。明らかに、北朝鮮はまたも揺さぶりをかけてきたのである。しかし「家族会」の人々は動じなかった。いつものように一枚岩となって卑劣な策動を拒絶した。「家族会」そのものがひとつの『家族』である。だからこそここまでやってこられたのだ。まさにこの本が訴えていることを目の当たりにして、私は再びこうして原稿を綴っている。書こうとしていた内容にいささかの間違いもなかったということを再確認して。

 本書は、戦後半世紀の日本人そのものの物語である。北朝鮮に身内を拉致されたいくつかの家族を描くことは、はからずも私たちがここ半世紀にどうやって国を作り上げ、そして滅ぼしてきたかを叙述することになった。

 拉致被害者の親や年長の兄弟たちの多くは昭和初期に生まれている。戦後の混乱期に父として母として兄として一家を支え、働きに働いて子供たちに教育を与えてきた。

 拉致される直前、帰省した蓮池薫さんは父の秀量さんに将来は弁護士になりたいとの意志を伝える。父は言った<「お前がそう思うなら田畑売ってでも夢は叶えてやる。だからお前も頑張れ」>。自分の代よりも子供には少しでもいい社会を。少しでもいい日本を。国民みんながそう思って血の滲むような努力をしていた時代であった。その果実がまさに実ろうという直前に、卑劣な独裁者は手折り持ち去ったのである。

 子供たちも与えられるばかりではなかった。スペイン留学中に拉致された松木薫さんはコツコツと勉強する人だった。ある時帰省した彼は母に「はいお菓子」と箱を差し出す。<あら、うれしいとスナヨが蓋を開けると、中にはお札が詰まっていた。母親が渡していた小遣いだ。(中略)「こんな出来すぎた子を生んだ覚えはないよ」。スナヨはそう言いながら感激して涙をためていた>。

 ごく真っ当な勤勉で誠実な人々が人生を断ち切られ離別を強いられる。そのような事態を許さずに彼らを守るのが国家であり政治家ではないのか。先ほど私は国を「滅ぼしてきた」と書いた。『家族』は、霞が関と永田町に巣くう外道がいかに本当に守るべきものに背を向け、国を売り渡してきたかを戦慄すべき筆致で綴っている。浜本雄幸は血を吐くように言った。<「一般庶民はみんな毎日食うために命がけで仕事をやっています。一国の総理が政治生命をかけていない。命がけではないとはいったいどういうことやッ」>

 折しも夏休みである。親であるあなたは襟をひっつかんででも子供に『家族』を読ませたまえ。何を大切にし何と闘うべきかをこの本は教えてくれる。そしてあなた自身、来るべき総選挙の前に、今一度読み返したまえ。
     
   
   
勝谷誠彦
週刊現代2003年8月23日号掲載
お手許に置きたい方はぜひ『週刊現代』を
著者の勝谷誠彦氏から許可をいただいて掲載しています
     
     
   
     
    *****************************************************************
 占部裕子様/「家族」書評
*****************************************************************
淡々と書かれた文章の隅々にうねるような熱いものを感じました。
悲しみ、怒り、失望。
一冊をまとめて読むことが出来ませんでした。
一章一章に、一文一文に心が砕けてしまいそうで息が出来ないほどでした。
私はこの事実を全く知りませんでした。世の中の流れにも興味がなく、日々自分のことだけを考えて生きていました。
なんて恥ずかしい人間なのか!
無知の罪とはどれほどのものなのか!
拉致された年は私の生まれた年とほぼ同じ時期です。
一人の人間が生れ落ちて社会に出るまでの期間、放って置かれたとは!
渦中の方々はごく普通の生活を営まれていたと思います。いえむしろ、現在の社会を考えると奇跡的なほど真面目に、勤勉に生活をされていると感じました。
その方々が一瞬にして奈落に突き落とされる、その絶望感。
世間や国への失望。
自分を恥じ、無知であった罪を償うためにやるべきことをやらねばと思いました。
能力も媒体もありませんので、このHPを身の回りの人に教えたり、
この本を読ませていきたいと思います。


*****************************************************************
 メルマガ読者(hitomi様)/ここは日本?日本が乗っ取られている!
*****************************************************************
「あなたは,いままで最低のことをやっています。だから当委員会で取り上げるかどうかは,あまり期待しないでください」
日弁連の人権擁護委員会の担当者が有本さんに吐いた言葉のなんとおぞましく恥知らずなことか。
 昨秋以降,ご家族や支援者の口から拉致問題が語られ,この本を読めば読むほど政治家・官僚から私のような個人に至るまで,よってたかって拉致被害者とそのご家族を見捨ててきたことを思い知らされた。
 そして,加害者側を庇い,拉致被害者やご家族に対して神経を疑いたくなるような暴言の類を投げつけるアナウンサー・ジャーナリスト・有名人・知識人・政治家達がメディアに続々登場するのを目の当たりにして,長年にわたりご家族を容赦なく痛めつけ,日本人を騙してきたものの正体が少しずつ姿を現してきた気がした。
 私が気になって仕方がないのは,欧州からよど号グループによって連れ去られた有本さん達のことだ。
 1984年,一人旅に出かけた私は最初の到着地ロンドンで今後の説明を受けた時に「人さらい」の話をされ怖い思いをしたことがある。この「人さらい」話がずっと引っかかり,昨年,友人から届いたメールを読んであっと叫んだ。「初めてロンドンへ行ったとき,留学中の知人にウワサを聞いたことがあります。85年の冬のこと。今考えたら,有本さんのことだったかもと思い当たって,戦慄」
 もしかして当時ロンドンに住む日本人や旅行業界の間では知られた事で,「人さらい」話にはそういった背景があったのだろうか?
 また,私の住む町からも拉致被害者を出している。住民にとって馴染み深く,私には友達と遊んだ思い出の場所に北朝鮮の工作員が平然と現れ拉致した。何故この町が狙われ,何が行われていたのか。日本や海外での日本人狩りを助けたものは何なのか。
 私は何も知らず,そして知ろうともしなかった。私や友達の間で韓国も北朝鮮もほとんど話題に上がることはなく,存在しないも同然で警戒心は皆無だった。日本のマスゴミが何故親北朝鮮なのかを触れた山本夏彦氏の文章を氏の死後再読して気づく始末だった。
 何より私が犯した大きな過ちは,日本国民の命を託すに値しない政党・政治家に一票を投じてしまったことだ。奇麗事を並べる裏の冷酷非道,国民への裏切り行為を見抜けなかった。
 自分への怒り,そして金正日とその不愉快な仲間たちへの怒りは増すばかりで,抑え切れない感情を持て余すことが多々ある。憎悪の塊になりそうな私を救うのは,故増元正一さんの「わしは日本を信じる!だからお前も信じろ!」であり,奪われた肉親を取り戻そうと命を削ってこられたご家族の力強く美しい言葉だ。その言葉と心とともに,日本人を帰せと要求し続けよう。拉致事件の真相と責任を明らかにさせよう。日本人だって執念深いのだ。

     
   
     
     
   
「家族」を呼んだあなたの書評をお寄せ下さい。
   
(公開いたします・HN可)
   
(非公開)
   

1200字程度

   
   
  ホームページへの掲載、また将来の出版に関しまして原著作権者として出版権複製権等関連著作隣接権の譲渡または無償実施権の付与、ならびに印税の『北朝鮮による拉致被害者家族連絡会』(家族会)への寄付にあらかじめご了承いただきますようお願いいたします。
   
   
   
     
   
     
   
     

 

     
  HOME バックナンバー 編集後記 投稿募集 リンク お問い合せ メルマガ登録・解除 賛同者リスト