2003年11月3日号
 
第11回目のコラムはジャーナリスト・西村幸祐さん。2003年3月、「現代コリア」に掲載された「メディアの解体」によって“メディアリテラシー”の重要性を広め、「諸君!」7月号の「拉致家族と朝日新聞&筑紫哲也の深すぎる溝」では、「NEWS 23」が国民大集会を1秒も報じなかった理由を暴露した。

   
西村幸祐【私たちに突きつけられた刃は何か。】
     
   

 十月二十八日に衆議院選挙が公示され、十一月九日の投票日に向けてメディアには選挙情報が溢れている。だが、不思議なのは、各党とも選挙の焦点に拉致問題が挙げられていないことだ。もちろん、公約や政策の一部として各政党は拉致問題を掲げているのだが、この一年間、日本が何を課せられ、何が問われてきたのかを考えれば、卑しくも政権を担おうという意志を持つ政党なら、拉致問題を第一の課題として<マニフェスト>するべきだ。10月28日の党首による合同記者会見でも、拉致問題は後ろに追いやられたまま、道路だの、郵政だの、要するにどうでもいいようなテーマが焦点になった。どうでもいいというのは、決して乱暴な言い方ではない。八人の拉致被害者家族の帰国、十人の行方不明者の安否確認、三百人以上の拉致被害者の情報の方が、道路や郵便事業の行方より日本人にとって遥かに重大で切実な問題である。こんな当たり前の事を解っていない政治家だから、二十五年も拉致問題を放置し、一年間何もできずに手をこまねいていたのだろう。

 それは何よりも、現在の日本が国家としての意思を持ち得ない情けない状況を露呈したということだ。拉致被害者の生命を軽視するのと同時に、侵されたままの国家主権に対する自覚も、危機感も持てない惨状なのである。

 家族会はこれから拉致議連などで拉致問題解決に尽力した政治家へ選挙中の協力を惜しまないだろう。当然のことである。増元照明氏は拉致問題解決に積極的だった候補者には「ぶっちぎりで勝って欲しい」と語っている。現在の自民、民主という既成政党の枠組みは余りに解りにくいし、政党の存在意義すら疑わしいものにしている。一層のこと、拉致解決党とかいう政党の下に心ある人々が結集すれば良かった。そうすれば、日本の緊急課題である拉致、安全保障、憲法の問題を曖昧にする愚かなメディアも気にせず、国民に理解しやすい状況が生まれただろう。埼玉県知事選で上田清司氏の当選理由を民主党、自由党の合併効果だなどと低次元の解説をする既成メディアを、私たちはもうお払い箱にしようではないか。私たちにできることは限られているが、「拉致被害者を日本に返せ!」という声を挙げ続け、ふざけたメディアに投書や電話などでノンを叩き付けることが重要なのだ。

 十月二十八日にTBSの「news23」は緊急報道と称して北朝鮮の収容所の実態をレポートした。報道したのはいいのだが、遂に北朝鮮政府とあの独裁者を非難する言葉が一言も出なかったのに驚いた。従来の報道姿勢に余りに多くの抗議が寄せられたのか、一見、報道姿勢を転換したように見せたのだが、結局、基本姿勢は変わらぬままのアリバイ作りのように思われた。

 十月二十六日に行われた海上自衛隊の観艦式を取材したが、あれだけの規模の艦隊を秒刻みで動かす自衛隊の実力と志気に触れる事ができて光栄だった。メディアは首相の訓示内容より、<日本海軍>の軍事的潜在力を大々的に報じる方が、遥かに私たちや拉致被害者にとって有益である。そんなことすら考えも及ばない愚かなメディアしか、私たちは持ち得ない状況だという事も拉致問題が教えてくれる。北朝鮮に囚われている拉致被害者たちが、いつか、この自衛艦や自衛隊機で帰国できることが叶えばと思いつつ、私は首相と防衛庁長官が乗艦した「しらね」を後にした。

     
     
   
   
西村 幸祐(にしむら こうゆう)
昭和27年(1952年)東京生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科中退。在学中、第六次『三田文学』の編集を担当。80年代後半から主にスポーツをテーマに作家、ジャーナリストとしての活動を開始。96年、日本初のサッカーオンラインマガジン「2002JAPAN」(現「2002CLUB」)編集長に就任し、00年「サッカーウイナーズ」(新潮社)をプロデュース。2002年日韓W杯取材後、拉致問題、歴史問題などスポーツ以外の分野にも活動を広げ、2003年3月、「メディアの解体」を「現代コリア」に発表。「拉致家族と朝日新聞&筑紫哲也の深すぎる溝」を「諸君!」7月号に発表。現在、「諸君!」を中心に評論、ノンフィクションなどを執筆。
     
     
     
   
   

 

 

     
  HOME バックナンバー 編集後記 投稿募集 リンク お問い合せ メルマガ登録・解除 賛同者リスト