2003年10月1日号
 
第八回目のコラムは前川亜紀さん。コラムニスト・勝谷誠彦さんの助手・M君として活躍。一方「Can Cam」「VoCE」「PS」などの女性誌で活動するフリーの編集者でもある。私達の世代がほとんど意識しない「愛国心」。映画を見ての号泣ポイントの変化。変わりつつある何か・・。

   
前川亜紀
     
   

 3か月前、夫が新しい女の家に転がり込み、離婚。そして私は独りになりました。

 その後、引越しの踏ん切りもつかず、夫と一緒にいた部屋で面影を探しながら涙にくれる毎日を過ごしている…なわけありませんね、この私が。連日、今まで夫に抑圧されていたなにかを取り返すように、歌舞伎町、麻布などで潰れるまで呑んでまいた。あ〜楽しかった♪。

 そんな毎日にピリオドが打たれたのは、血ゲロを吐いたから…ではなく、映画『カサブランカ』との再会。それはある初夏の夕方、神田・神保町。『カサブランカ』DVDは通りすがりの中古レコード屋の2千円均一のセールワゴンに積まれていました。“10年前、今は無き銀座の名画座(名前忘れた・和光の裏)で観た、不朽の名作がこんな姿で…”と初恋の娘が女郎になり、落籍しようかと迷う明治時代の帝大学士…の1億分の1以下の軽い気分で購入。さっそく帰宅、スイッチオン。

 ここであらすじをカンタンに説明すると、ハンフリー・ボガード(以下・ボガ)はイングリット・バーグマン(以下・イングリ)とパリで愛し合っていた。でもイングリには、反ナチ運動の急先鋒ラズロとゆー恋人がいたが、イングリはそいつを死んだもんと思っていた。ナチのパリ侵攻の日にボガとイングリはパリを脱出しようとする。しかしイングリは来ない…愛する女に裏切られ、悲観するボガ…。数年後、ボガはモロッコのカサブランカでバーを経営。そこになんと!あのイングリ夫妻が来る! 彼らはカサブランカ経由でアメリカに行こうとしていた。過去の恨みと愛情に縛られるボガ…そして、彼は決断する。夫妻をアメリカに送ろうと…。とまあこんな話なんですが、私が書くと、どーしょもない話みたいに聞こえるけど、映画はホントにすばらしいので観てくださいね。

 離婚当時なぜ、私がこの映画にハマったかというと、イングリを恋敵・ラズロとともにアメリカ行きの飛行機に乗せるときに、ボガが「俺達にはパリがある」と言うシーンがあったから。ボガは“ふたりが愛し合った思い出は永遠”みたいなニュアンスで言うの。く〜かっこいい! 私はこともあろうに、このボガにわが身を投影し、新しい女のところに行く夫を、見送った気持ちになっていたんですね。“愛し合っているのに別れなければならないふたり”みたいな。てめーらの思い出には錦糸町の焼き鳥屋くらいしかないクセに、ずーずーしい。そして姿形も似つかないほどちんちくりんのクセに。でも、このシーンで毎日泣き…20回以上は観ました。

 さて、離婚から4か月経った昨日、久しぶりにこの映画を観たら、私の号泣ポイントに異変が! その新“号泣のツボ”は、ボガのバーでナチの将校達がドイツ国歌を歌っているのに抗して、フランス人の文民が、フランス国歌『ラ・マルセーズ』を歌うシーン。みんな涙を流して国歌を歌う様子に、私も涙が止まらず…。私達の世代がほとんど意識しない「愛国心」をつきつけられました。今、自分が立っている国土も日本、そして、緑の多いところに行き、土と緑の香りを胸に吸い込んだときに感じる、“これが日本だ、私の国だ”と万象を愛する気持ち…こういう“思い”を、このシーンに感じました。フランスから離れたモロッコのカサブランカで、国を思って歌い、涙する気持ち…その深い“愛”に打たれました。

 しかし、我らが国歌『君が代』はむおおおお〜〜んとした雰囲気の曲なので、なかなかこうはいかないだろうけどね。いや〜小説でも、映画でも、時間の淘汰を経て残る作品ってのは、人生の経験値を積むごとに、新しい発見と感動を与えてくれますね。

     
     
   
   
前川亜紀(まえかわあき)
1977,10,18東京都生まれ。明治大学文学部仏文科在籍。コラムニスト・勝谷誠彦
さんの助手・M君として活躍。一方「Can Cam」「VoCE」「PS」などの女性誌で活
動するフリーの編集者でもある。恋愛、美容などのテーマの特集とインタビュー
が得意。趣味はアルゼンチンタンゴと飲酒。
     
     
     
   
   

 

 

     
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